USBテスターを用いたWh基準の計測方法を定め、製品間の公平な比較を可能にするためのレギュレーション解説です。
1. はじめに — なぜレギュレーションが必要か
モバイルバッテリーのレビューでは、製品スペックの「mAh」をそのまま並べて比較しているケースを見かけます。しかしこの比較方法には落とし穴があります。mAhは「電圧に依存した量」であり、電圧が異なれば同じ数値でも蓄えられるエネルギーは異なります。
本レギュレーションでは、USBテスターを用いたWh(ワット時)基準の計測方法を定め、製品間の公平な比較を可能にします。
2. 製品仕様の読み方 — Ah・V・Whの意味
| 単位 | 名称 | 意味 | 典型値 |
|---|---|---|---|
| mAh | ミリアンペア時 | 電荷量。電圧に依存するため、異なる電圧のデバイス間では直接比較できない | 10,000 mAh(セル) |
| V | ボルト(電圧) | 電流を押し出す力。リチウムセルは公称3.6〜3.7V、USB出力は5V〜20V | 3.7V(セル)/ 5V(USB) |
| Wh | ワット時 | エネルギー量。mAh × V で算出。電圧によらず比較できる | 37 Wh |
| W | ワット(電力) | 電圧 × 電流 = 瞬間的な仕事率 | 5V × 2A = 10W |
Wh = mAh ÷ 1000 × V 例:10,000 mAh × 3.7V = 37 Wh
3. なぜWhで比較するか — mAh比較の問題点
インターネット上のレビューでは「実際に入ったmAhを計測」という方法が見られますが、以下の理由で不正確です。
| 計測条件 | mAh表示 | Wh換算 |
|---|---|---|
| USBテスター 5V給電時 | 6,500 mAh @ 5V | 32.5 Wh |
| USB PD 9V給電時 | 3,600 mAh @ 9V | 32.4 Wh ≒ 同じエネルギー |
上記のように、出力電圧が違えばmAhの数値はまったく異なります。Whで比べれば同じエネルギー量であることがわかります。
本レギュレーションでは計測値を必ずWh(またはmWh)で記録・比較します。USBテスターは電圧・電流を積分してWhを自動算出するため、出力電圧の差異を気にせず比較が可能です。
4. 変換効率とエネルギーロス
エネルギーの流れと2段階のロス
モバイルバッテリーでは、エネルギーが以下の経路をたどります。各ステップで変換ロスが発生します。

変換効率の目安

総合変換効率(%)= 出力電力量 ÷ 入力電力量 × 100
5. 用語の定義
| 用語 | 定義 | 計測方法 |
|---|---|---|
| 入力電力量 | 空のモバイルバッテリーを満充電するまでにACアダプタ側から供給された電力量(Wh) | 充電器とMBの間にUSBテスターを挟んで計測 |
| 蓄電電力量 | セルに実際に蓄えられた電力量(Wh)。直接計測は不可 | 推定値。入力電力量 × 充電効率(参考値) |
| 出力電力量 | 満充電のMBを空になるまで放電したとき、USB端子から出力された電力量(Wh) | MBとダミーロードの間にUSBテスターを挟んで計測 |
| 充電変換効率 | 入力から蓄電への変換効率。直接測定は困難 | 推定のみ |
| 放電変換効率 | 蓄電から出力への変換効率 | 推定のみ |
| 総合変換効率 | 入力電力量に対する出力電力量の比率(%) | 出力 ÷ 入力 × 100 |
| 公称容量 | メーカーが表記する容量。セル電圧(3.6〜3.7V)基準のmAhで表記されることが多い | 仕様書から参照 |
6. 計測レギュレーション(手順)
必要な機材
- USBテスター(Wh積算計測対応機種)
- 規格対応ACアダプタ
- 計測対象モバイルバッテリー
- ダミーロード(または端末)
USBテスターの接続方法

①
計測①:入力電力量の計測(充電時)
モバイルバッテリーを完全放電させた後、ACアダプタとモバイルバッテリーの充電端子の間にUSBテスターを接続する。充電完了まで待ち、USBテスターが表示するWhを記録する。この値が入力電力量。
📌 充電完了の判断:本体LED/インジケーターが「満充電」を示したとき
②
計測②:出力電力量の計測(放電時)
満充電にしたモバイルバッテリーのUSB出力端子とダミーロード(または端末)の間にUSBテスターを接続する。バッテリーが完全に空になるまで放電し、WhをUSBテスターから記録する。この値が出力電力量。
📌 放電完了の判断:出力が自動停止したとき(電圧降下による保護回路動作)
📌 この値がバッテリー性能の比較基準値となる(直接計測可能な最も信頼性の高い数値)
③
計測③:各種値の算出と公称値比較
計測①・②の値から以下を算出する。
総合変換効率(%)= 出力電力量 ÷ 入力電力量 × 100公称Wh = 公称mAh ÷ 1000 × 公称電圧(例:3.7V)容量再現率(%)= 出力電力量 ÷ 公称Wh × 100
| 指標 | 判定目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 総合変換効率 | 80%以上:優秀 70〜80%:標準 70%未満:要注意 | 入力電力量と出力電力量から算出 |
| 容量再現率 | 85%以上:良好 75〜85%:標準 75%未満:要注意 | 変換ロスを考慮した正常範囲内かを確認 |
7. 計測条件の統一
| 項目 | 推奨条件 | 理由 |
|---|---|---|
| 室温 | 20〜25℃ | 温度はリチウム電池の特性に影響する |
| 充電規格 | 製品推奨規格(仕様書記載) | 非推奨規格では出力が制限される場合がある |
| 放電負荷 | 一定負荷(ダミーロード推奨) | 端末による負荷変動を排除するため |
| 放電電圧 | 5V固定(比較目的) | 電圧を揃えることで計測条件を統一 |
| USBテスター | Wh積算対応機種 | mAhのみの機種では不可 |
| 初期状態 | 計測前に1サイクル以上実施 | 新品時の初期特性の影響を排除 |
8. まとめ
- 比較基準は必ずWh(ワット時)で行う
- mAhでの単純比較は電圧依存のため不正確
- 計測値は出力電力量(計測②)を性能比較基準とする
- 「蓄電電力量 = 出力電力量」は不正確。放電時にも変換ロスが発生する
- 総合変換効率70〜80%は正常範囲。著しく低い場合は品質に疑問
- 端末側の充電ロスは本レギュレーションの評価対象外
- 計測条件(室温・電圧・負荷)を統一して比較する